P30-P31
た御方。その大侠が真作と太鼓判を押すのです。これに間違いがあろうものですか。男に二言あらば自刃して果てるのが、剛直の士というもの。翰林劃竹の名を辱めるような振る舞いをするくらいであればおのが素っ首引っ掻いて果てるというのが、廉耆先生の口癖です」
こればかりはやけに流暢に大袈裟に褒め立てる県令の言葉も、もはや廉耆の耳を右から左へと通り抜けるばかりだ。
間違いなく買い求めた時、壺は真正であった。これは疑いようのない事実だ。それがいつ、なぜ、どうやって思い当たる節は一つしかない。掠風竊塵の訪問である。きゃつの狙いは弟子入りなどではない。この貴重な萬輿時代の壺であったのだ。そうとしか考えられない。
「いかがしたか?」
俯いた廉耆の顔を県令が不思議そうに覗き込もうとする。顔を隠した御史も、やはり不審そうにしているのは明らかだ。
後援者である県令とさらには御史にまで贋作を献上しようとしていたことを正直に白状すれば、その場は取り繕えても不信の念を生じさせるのは明白。かといって真作だとを吐くのはおのれの誇りが許さない。
そもそもかって官吏としての上役を斬り、輝かしい将来を棒に振って江湖に落魄したのも、元はといえば目利きとして評判の高かった廉耆に目をつけた上役に詐欺の片棒を担がされそうになったことが原因だ。
かっての廉耆はこれに憤慨し、即座に刀を抜いて斬り捨てた。それから落ち延びた江湖では金を貰って人を斬り、魔道の輩と交流して魔装具造りまで会得した。だが、いまだかって贋作を真作と偽って人を騙したことはない。
人の世の道徳など意に介さない廉耆だが、これは数奇者としての誇りの間題であった。
だがしかし、今の廉耆は大人になり過ぎた。逃げ道のこれあるを知って、無謀な行動に出る若さがなかった。
御史に賄賂を贈らねば県令は失脚するかも知れず、県令に真作を用意できなかったと言えば信頼を失う。
廉耆は二人を見た。県令の眼は節穴だ。御史も得体の知れぬところはあれども、たちこれまでの様子を見る限り、愚鈍の質にみえる。どうせ物の価値が分からぬやつらだ。
廉耆は腹をくくり、おのれの頬を触った。媚びへつらう痴呆めいた笑みを貼りつけ直すことができたか確かめた。
た御方。その大侠が真作と太鼓判を押すのです。これに間違いがあろうものですか。男に二言あらば自刃して果てるのが、剛直の士というもの。翰林劃竹の名を辱めるような振る舞いをするくらいであればおのが素っ首引っ掻いて果てるというのが、廉耆先生の口癖です」
こればかりはやけに流暢に大袈裟に褒め立てる県令の言葉も、もはや廉耆の耳を右から左へと通り抜けるばかりだ。
間違いなく買い求めた時、壺は真正であった。これは疑いようのない事実だ。それがいつ、なぜ、どうやって思い当たる節は一つしかない。掠風竊塵の訪問である。きゃつの狙いは弟子入りなどではない。この貴重な萬輿時代の壺であったのだ。そうとしか考えられない。
「いかがしたか?」
俯いた廉耆の顔を県令が不思議そうに覗き込もうとする。顔を隠した御史も、やはり不審そうにしているのは明らかだ。
後援者である県令とさらには御史にまで贋作を献上しようとしていたことを正直に白状すれば、その場は取り繕えても不信の念を生じさせるのは明白。かといって真作だとを吐くのはおのれの誇りが許さない。
そもそもかって官吏としての上役を斬り、輝かしい将来を棒に振って江湖に落魄したのも、元はといえば目利きとして評判の高かった廉耆に目をつけた上役に詐欺の片棒を担がされそうになったことが原因だ。
かっての廉耆はこれに憤慨し、即座に刀を抜いて斬り捨てた。それから落ち延びた江湖では金を貰って人を斬り、魔道の輩と交流して魔装具造りまで会得した。だが、いまだかって贋作を真作と偽って人を騙したことはない。
人の世の道徳など意に介さない廉耆だが、これは数奇者としての誇りの間題であった。
だがしかし、今の廉耆は大人になり過ぎた。逃げ道のこれあるを知って、無謀な行動に出る若さがなかった。
御史に賄賂を贈らねば県令は失脚するかも知れず、県令に真作を用意できなかったと言えば信頼を失う。
廉耆は二人を見た。県令の眼は節穴だ。御史も得体の知れぬところはあれども、たちこれまでの様子を見る限り、愚鈍の質にみえる。どうせ物の価値が分からぬやつらだ。
廉耆は腹をくくり、おのれの頬を触った。媚びへつらう痴呆めいた笑みを貼りつけ直すことができたか確かめた。

凛雪鸦









