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回复:精灵の守り人

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朝日が天をおおう绿をすかして、シダやササの下草をまだらにてらしている。
「ちょっと、まて。」
 ふいにうしろから声をかけられて、足早にさきをいそいでいたバルサがたちどまった。ジンが、しゃがみこんで、大木の阴にはえているシダをみつめている。
「なんだい?」
 ジンが颜をあげた。
「どうやら、タンダの意见は正しかったようだ。ここに、だれかがねむったあとがある。シダのたおれぐあいからみて、夜明けごろにここをたったようだな。」
 ジンのわきにたっていたゼンが、地面を指さして、ぼそっといった。
「|皇子《おうじ》样だ。まちがいねぇ。みな。小さい足迹がある。」
 バルサは下草をかきわけてもどり、ゼンが指さしている地面をみた。たしかに、小さな|草鞋《わらじ》のあとが、かすかに地面にのこっていた。とくに二本くっきりと绳のあとがみえる。バルサは胸がきゅっと痛むのをおぼえた。
「ああ。チャグムの足迹だ。わたしがすべりどめにまいてやったワラ绳のあとがある。」
 バルサはたちあがって、タンダをみた。
「水源まで、あとどのくらいだい?」
「おれたちの足なら二ダン(约二时间)だな。」
「夜明けにここをたったとすれば、チャグムはわたしらより半ダンははやく水源についちまう。」
 バルサは、いちどうの颜をみまわした。
「松明をつくる时间を考えれば、まったくよゆうはないってわけだ。——あんたらの实力をみせてもらうよ。」
〈狩人〉たちは、にやっとわらった。


79楼2007-07-13 23:19
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    「あとすこしで、サアナンだ。」
     つぶやいたタンダが、ふいにたちどまった。
    「どうしたんだい?」
     いらいらと、バルサがふりかえった。
    「しっ!」
     タンダはみじかくせいして、川原にかがみこむと、|青弓川《あおゆみがわ》に颜をすれすれまでちかづけた。タンダの耳に、ナユグのヨナ·ロ·ガイ〈水の民〉のよび声がきこえてきたのである。タンダは咒文をとなえて、ナユグへの目をひらいた。
     タンダは息をのんだ。彼は、大きく|蛇行《だこう》して流れていく川のうえに、うかんでいたのである。サアナンのある前方は、ぐうっと土手がもりあがり、そのむこうには、四方を山にかこまれた广大な泥海がひろがっているではないか。
    「……若いト·ロ·ガイ〈地上の民〉よ。」
     タンダは、息のできぬくるしさのなかで、ヨナ·ロ·ガイがひっしによびかけるのをきいた。
    「老ト·ロ·ガイから、ことづてだ。|松脂《まつやに》だけでなく、油をたっぷりとしみこませて、水ではきえぬ火をつくりラルンガと战え。卵をナ——……。」
     そこまでが限界だった。タンダはひゅうっと息をすいこみながら、あおむけにたおれた。
    「タンダ! いったいなにがおきたんだい?」
     バルサにたすけおこされて、タンダはせきこみながら、いった。
    「トロガイが、おれたちに传言をしてきた。ヨナ·ロ·ガイなら、地上を旅するよりはるかにはやく、ナユグの川を泳いでこられるからだろう。松脂だけでなく、油をしみこませた、水ではきえない松明をつくれと。……时间がない。いそいで、松明の内侧に油をしみこませるんだ。」
     タンダの目が、バルサをみつめた。
    「サアナンは、ナユグでは泥の海なんだ。」
     そのとき、かすかなさけび声がきこえてきた。バルサが、はじけるようにたちあがると、走りはじめた。
    「まて、バルサ! 松明なしで、ラルンガにたちむかう气か!」
     タンダがとめようとさけんだが、バルサの姿はあっというまに川原の岩をのりこえ、水源のほうにきえてしまった。バルサをおおうとする〈狩人〉たちを、タンダはひっしにとめた。
    「いくな。松明をつくるのがさきだ! バルサなら、きっとそのくらいのまはもたせられる!」


    81楼2007-07-13 23:19
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      2025-11-09 00:37:10
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      ヒュン、ヒュン空をきって、鞭のようにおそってくる触手を、短枪ではじき、すりぬけて、バルサはチャグムのほうへ走った。が、とつぜん、足をとられて、バルサははげしく地面にたたきつけられた。触手の一本がバルサの足をからみとったのだ。そのまま、ぐうんとからだがもちあげられていく。バルサは、锐利な刃物のように光る爪がせまってくるのをみた。触手でまきあげ、ふりまわし、爪にたたきつけて杀そうとしているのだ。
       するどい刃に、高速でたたきつけられるようなものだ。ふせぎようがなかった。バルサが齿をくいしばった瞬间、ふいに、ビクッと触手がバルサをかかえたままはねあがった。バルサの肩と背のしたを爪のさきがとおりすぎ、烧けるような痛みが背にはしった。
       バルサは身をねじって地上をみた。目のはしに、松明をもった男がみえた。ジンだ。|黑烟《こくえん》をあげて、ごうごう燃えさかる炎を触手におしつけている。その背をタンダとゼンがまもっている。
       いやなにおいがバルサの全身をつつんだ。大气をふるわすような悲鸣をあげながら、触手は、バルサを空中にほうりなげた。バルサは膝をたたんで身をまるめ、くるくると二回转して、地面におちた、砂利をけたててバルサは横转したが、まるで体重がないかのように、すぐに一转しておきあがっていた。
       衣の背中の部分がスパッときりさかれ、背にも长い切り伤ができていたが、その伤の痛みを、バルサは感じていなかった。かなりふかい伤なのに、ほとんど出血していない。
       过去のどの战いよりもはげしい兴奋状态が、バルサの全身を热气のようなものでつつんでいた。
       バルサの背後では、タンダたちが松明をふりまわし、ラルンガの爪や触手に炎をおしつけている。ラルンガはたしかに火をきらっていたが、ナユグとサグをじざいに行き来できるラルンガを、松明の炎だけで退治することは至难の业だった。ジュッと炎をおしつけられるたびに、さっときえ、おもいがけぬところから、また、ふいにあらわれておそいかかってくる。
       汗まみれになって松明をふる三人の男たちは、まるで舞をまっているようにみえた。だが、それは、气をぬいたとたんに命をうしなう、命がけの舞だった。
       ラルンガは触手のさきにあるするどい嗅觉で、ニュンガ·ロ·イムの卵をおっていた。炎をさけながらも、たえず地面に触手をつけては、たまらなく食欲を刺激するそのにおいを正确におっていたのだ。そして、いま、ラルンガは、木の根元にうずくまるチャグムに气がついた……。

       木の根にたたきつけられたチャグムは、直接头はうたなかったものの、全身をうちつけた冲击で、ぼうっとなっていた。バルサがチャグムのもとにたどりつき、わきのしたに手をいれてかかえあげたとき、チャグムは、ようやくはっきりと意识をとりもどした。そして、あわてて、右手ににぎりしめたままの卵をみた。ぐしゃりとにぎりつぶしてしまったのでは、と思ったが、青く光っている卵は、伤ひとつついていなかった。卵はまるで、石のようにかたく、なめらかだった。にぎっているてのひらに、かすかにあたたかさがつたわってくる。——|生命《せいめい》の感触だった。
       バルサが卵をみ、チャグムをみた。
      「そいつをすてちまいな! なげるんだ、はやく!」
       どきん、とチャグムの胸がいたんだ。チャグムは目をみひらいて、バルサをみた。
       これをすてれば、たすかる。战ってくれている、タンダたちも、自分の命を牺牲にしてまで、べつの命をまもる必要はないのだから、はやくすてさるべきなのだ……。
       ごくみじかいあいだに、チャグムの胸のなかをさまざまな思いがかけめぐった。てのひらにつたわってくるあたたかさ。——その无力さ。いま、卵は、チャグムをあやつる力をまったくもっていなかった。あの、生きたい、というはげしい冲动をチャグムにつたえるすべさえもたなかった。ただ、无言でかすかなぬくもりをてのひらにつたえているだけだ。
       それでも、彼には、生きたい、という卵の思いが痛いほど感じられた。チャグムをえらび、チャグムをしんじて命をあずけてきたのだ。ただひたすら、「生きる」という、そのためにだけ。


      83楼2007-07-13 23:19
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        からだがしびれるような、すさまじい杀气が足もとからふきあがり、チャグムの物思いをやぶった。バルサが、チャグムをかかえあげてにげようとした瞬间、チャグムは、ぱっと木の根をけってバルサの腕をすりぬけて、かけだした。
        「チャグム!」
         地面が|柘榴《ざくろ》のようにわれ、チャグムをおってラルンガの爪があらわれた。

         タンダは、こちらへ走ってくるチャグムの姿と、それをおってあらわれた爪をみた。そんなおそろしい瞬间だというのに、タンダの意识はみょうにはっきりと、かんだかい鸟の声をとらえていた。ラルンガの爪の上空を、鸟の群れがわたってくる。
         カ—オ、カ—オと鸣きかわすその声をきいたとたん、タンダの头のなかで光がはじけた。
        (ナ—ジ、……|ナ—ジ《___》だ!)
         ヤク—の|村境《むらざかい》にさがる、魔除けのナ—ジの骨。その翼には魔物もおいつけぬという、夏至祭りの歌……。なにをすべきかが、ふいに、はっきりとわかった。
        「ナ—ジ、ナ—ジだ! チャグム! 卵を|なげあげろ《_____》!」
         さけびながら、タンダは、チャグムにむかってかけだした。

         ラルンガの触手が何本も、うなりをあげてせまってくる。一本の触手がチャグムにふれそうになった。すんでのところで、その触手にバルサがとりつき、ぐいっと地面にひきずりおろした。だが、そのすきに、べつの触手がチャグムのからだにのびた。たすけようとかけよったジンとゼンは、爪にはばまれて、触手がチャグムの右腕にまきつくのをふせぐことができなかった。
         いやな音がして、チャグムの右肩に激痛がはしった。いきなり、すさまじい力でひっぱられたために、右肩を脱臼してしまったのだ。触手は弓なりにしなってチャグムを宙へひっぱりあげた。触手のさきの|纤毛《せんもう》がイソギンチャクのように口をひらき、するすると卵にせまってくる。
        (食われる!)
         チャグムはわめきながら、ひっしに左手で右手の卵をとろうとした。けれど、触手につりあげられてしまった右手には、どうあがいてもとどかなかった。
        (もう、だめだ……!)
         チャグムがあきらめかけた、そのとき、ふいによこからのびてきた大きな手が、ぐいっと卵をもぎとった。その手の主をみて、チャグムの颜が、つかのま苦痛をわすれてかがやいた。
        「タンダ!」
         タンダは、ひきしぼった矢をはなつように、卵を天へなげあげた。
         青雾山脉をこえて、北から南へと天空をわたっていくナ—ジの群れから、一羽が、はずれた。急降下してきたその鸟が、なめらかに滑空しながら、そのくちばしに、はっしと青い光をはなつ卵をくわえたのを、泪にかすんだ目で、チャグムは、たしかにみた。
         ナ—ジは、小气味よい速さで天空をすべり、あっというまに视界からきえてしまった。
         卵は、とうとう、ラルンガの手をのがれたのだ。
         けれど、あまりにすばやく空をきってきえた卵のにおいをおうことができなかったために、ラルンガの食欲は、卵のにおいを浓厚にのこしているチャグムに集中してしまった。
         タンダは、チャグムの胴を右手でかかえ、左手でもっていた松明の炎を、チャグムにまきついている触手におしつけた。鸟肌のたつような悲鸣とともに、その触手はチャグムをはなしたが、そのときにはもう、まるでヒルが获物にむらがるように、何本もの触手が、つぎつぎにチャグムにまきついてしまっていた。チャグムをかかえて、ひきはがそうとしていたタンダも、松明をふるうまもなく触手にまきつかれ、松明をはじきとばされてしまった。
         触手につりあげられて、ふたりは、ぐんぐん地面から远ざかっていく。
        「チャグム! タンダ!」


        84楼2007-07-13 23:20
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           バルサはふたりをつりあげている四本の触手めがけて、目にみえぬほどの速さで短枪をくりだし、さしつらぬきはじめた。ジンとゼンはすきをついて爪の内侧にとびこみ、バルサめがけてとじようとしている爪を松明で烧き、ひっしにバルサをまもった。
           バルサの短枪でうがたれた穴から体液がしたたり、激痛がラルンガをせめさいなんだ。冷たく暗い泥の底に住まうラルンガにとって、もっともにがてな炎の热と、触手をつらぬく痛みとが、ラルンガの苦痛をふくれあがらせた……。
           バルサは、きゅうに足もとの地面がふくらみ、もちあがっていくのを感じた。つぎの瞬间、土くれをふきあげながら、ぬめぬめとした巨大な生き物のからだが出现した。バルサも、ジンとゼンも足もとをすくわれてころび、なにがおきたのかわからぬまま、爪の外侧にはじきおときされてしまった。
           ラルンガの巨大な口が、爪の内侧にひらいていた。ねばつく体液をたらしながら、ラルンガは触手でとらえている卵のにおいのするものを、その口にとりこもうとした。
           ジンとゼンが、わめきながら、松明をその口めがけてなげた。だが、口のまわりにはえている触手が、器用にその松明をはじきとばしてしまった。
           バルサは齿をくいしばった。タンダがおとした松明にかけよると、右手に松明を、左手に短枪をもった。
           ラルンガの口にタンダの足がはいりかけている。
           バルサははねあがり、からだをゆみなりにしなわせて短枪をなげ、なげた反动をつかって、间发をいれず松明をもなげた。松明が短枪をおって矢のようにとんでいく。
           触手が短枪をはじいた。その瞬间にできた、わずかなすきまを、松明がすりぬけた。
           タンダの足をかすめて、燃えさかる松明が、ぐさりとラルンガの口につきささった。
           ジュウッといういやな音がした。声のないさけびをふきあげ、ラルンガはチャグムとタンダを宙へほうりなげ、つぎの瞬间、きえうせた。
           ドサッドサッというチャグムたちが地面にたたきつけられた音がひびいたあと、いっさいの音がきえた……。

           ……そして、吐息をつくような音とともに、しずかに、せせらぎの音がはじまった。
           バルサは川岸にたおれているチャグムにかけより、だきおこした。チャグムの颜には、まったく血の气がなく、その白い颜にびっしりと汗がういていた。チャグムのまぶたが、ぴくぴくっとうごき、焦点がよくさだまっていない目で、バルサをみた。
          「……う、腕が、いたい。」
           バルサは、ふかいため息をついて、チャグムの头をだきしめた。


          85楼2007-07-13 23:20
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             9 もうひとつの运命の衣

             夏至の夕暮れどき、バルサたちは水源からすこしくだったところで野宿をしていた。
             タンダはチャグムの腕の关节をはめて、ありあわせの布で固定すると、ラルンガ〈卵食い〉になげられたときに川原でうった胁腹に、ツンッと强いにおいのする药草をぬった。
            「本领发挥だね。」
             自分も背中の伤を手当てしてもらいながら、バルサがわらうと、タンダは鼻をならした。
            「おれたちのほうもだ。」
             ジンの声がして、ふたりの〈狩人〉たちが食粮の调达からかえってきた。手によくこえた山鸟を二羽とヤマメを数匹ぶらさげている。〈狩人〉たちは、チャグムが目をあけているのに气づいて、びくりとからだをふるわせると、チャグムのまえに正座し、ふかく头をさげた。
            「お气づきですか、|皇子《おうじ》样。」
             彼らは、まともにチャグムの颜をみられなかった。|皇族《おうぞく》であるから、というだけではない。帝の命令とはいえ、かつて、この|皇子《おうじ》の暗杀をこころみたのだ、といううしろめたい思いがふたりにはあったのである。チャグムは、暗い颜でつぶやいた。
            「おれは、いまは|皇子《おうじ》ではない。だから、かしこまる必要もない。」
            (父君が、どうめいじたのかを——ほんとうに、おれの命をねらえとめいじたのか、きいてみたい。)
             つかのま、チャグムはそう思った。だが、なぜか、そんなことは、もうどうでもいいのだ、という气持ちが胸のなかにひろがってきた。からだのつかれだけではない、ふかいつかれが、心のおくによどんでいた。
             ジンたちがとってきた鸟が、むぞうさに地面におかれている。そのぐったりとした死骸をみて、チャグムは、ふと、ぞくりとからだの底からふるえがはしるのをおぼえた。
             チャグムの手をとって脉をみていたタンダが、チャグムをみ、その视线のさきをみた。
            「……食う、食われる。のがれる、とらえられる。」
             つぶやいて、タンダはチャグムをみた。
            「当事者にとっては、この世でもっともたいせつなことなのに、なんとまあ、あっけなく、ありふれたことか……。な。」
             チャグムの目に泪がもりあがった。バルサの手がチャグムの肩をだいた。バルサのかすれた声が、ささやいた。
            「おまえがたすかって、ほんとうによかった。——まにあって、ほんとうに、よかった。」
             それをきいたとたん、心の底からからだぜんたいに、じんわりと热いなにかがひろがってきた。
            (たすかったんじゃない。——たすけられたんだ。)
             ふいに、その思いが强く心にせまってきた。卵の欲求を感じていた自分でさえ、自分を牺牲にして卵をたすけよう、とは、なかなか思えなかった。それなのに、あの恐怖のなかへ、この人びとはみずからとびこんできてくれたのだ。
             |皇子《おうじ》だったころ、彼は、まもられるのがあたりまえだと思っていた。けれど、いまは、それがいかに、あたりまえでないかが、よくわかった。
             チャグムは、よいほうの腕をバルサの首にまわし、ぎゅっとだきついた。
            「ありがとう。」
             それいがいなにもいえなかった。タンダをみ、〈狩人〉たちをみて、チャグムはくりかえした。
            「ありがとう。」
             チャグムは、八か月のあいだしいられてきた、心の紧张がほんとうにほぐれ、きえていくのを感じていた。ようやくおわったのだと思った。——だが、チャグムもバルサたちもしるよしもなかったが、このときもうひとつの运命が、チャグムにむかってしずかにちかづいていたのである。


            86楼2007-07-13 23:21
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              翌朝は、みな、たっぷりと朝寝をして、日がのぼりきったころに焚き火をけして旅だった。そして、おもいがけず、昼すこしまえに山道をのぼってきた兵士たちの一团にむかえられたのである。
               兵士たちの列よりすこしさきを步いていたトロガイが、まっさきにバルサたちに气づき、ぱっと颜をかがやかした。ジンとゼンは、兵士たちの先头にたっているモンをみて、あわててかけより、きのうのできごとをつげた。モンの颜に、つかのま、心の底からのよろこびのいろがうかんだが、ちかづいてくるチャグムに气づくと、さっと土下座をした。
               兵士たちも|铠金具《よろいかなぐ》をガチャガチャならして、いっせいに土下座をした。モンは〈狩人〉の|头《かしら》の颜から、〈帝の盾〉としての颜にかわっていた。目をふせて、彼はチャグムに|言上《ごんじょう》した。
              「お命がごぶじでありましたことを、せんえつながらおよろこびもうしあげまする。また、水の神をおすくいになられ、この国の日照りをおすくいになられたこと、一同心よりの感谢のねんに、うちふるえておりまする。われらは、圣祖トルガル帝の再来を|目《ま》のあたりにするという、身にあまる幸运をえました。これより代々、このことはかがやかしい英雄谭としてつたえられていくことでしょう。……皇太子殿下。」
               モンの最後の一言に、チャグムが、はっと目をみひらいた。バルサも、タンダも、ジンとゼンも、どきりとしてモンをみた。
              「皇太子、と、よんだのか。」
               チャグムの言叶は、しぜんに|皇子《おうじ》の言叶づかいにかわっていた。
              「はい。かなしいお知らせをせねばなりませぬ。|一昨日《いっさくじつ》の夜、おん|兄君《あにぎみ》、皇太子サグム殿下、病のためにご|逝去《せいきょ》されました。帝より、正式に、第二|皇子《おうじ》チャグム殿下を皇太子とする、とのお言叶がありました。われら、ふかくにも皇太子殿下をおまもりすることができませなんだが、ここより宫まで、皇太子殿下をおまもりもうしあげます。」
               チャグムは、胸の底から、ふかいかなしみがわきあがってくるのを感じた。兄サグムの死をかなしんだのではない。べつべつにそだてられ、たまにであったときでさえ、冷たい视线しかよこさなかった兄は、正直なところ、みしらぬ他人としかチャグムには思えなかった。
               だが、その兄の死が、まるで铁の衣のように、自分にあらたな运命をまといつかせ、しめつけてくるのを感じた。母君にあえる、と思った。自分はやがて帝になるのか、とも思った。さまざまなことが一气に胸をかけめぐった。——だが、それらの思いは、なぜか、とても远いところで、冷たくまわっているにすぎなかった。
               いちばんちかいところにある思いは、たまらないかなしさだった。
               チャグムは、バルサをみあげた。バルサが、じっと自分をみつめていた。
               兵士たちは、ぎょっとした。皇太子がとつぜん、きたない衣をまとった女にだきついて、身もはりさけんばかりの大声で泣きだしたからだ。
               バルサも泣いていた。声はださなかったが、ほおにあとからあとから泪がつたった。
              「おれ、いきたくない! おれ、皇太子になんか、なりたくないよ! ずっとバルサとタンダと旅していたいよ!」
               チャグムはぎゅっとバルサをだきしめて、さけんだ。バルサは、されるままになっていた。それから、ふいに自分の思いをおさえきれなくなり、ぱっとチャグムをだきあげた。强くチャグムをだきしめて、バルサはその肩に颜をうずめた。
               しばらくそうしていたが、やがて、バルサはゆっくりとチャグムをおろした。
              「……わたしとにげるかい? チャグム。」
               バルサのかすれ声に、兵士たちが、はっと身がまえた。バルサはわらっていた。
              「え? ひとあばれしてやろうか?」
               チャグムは、バルサをみあげて、しゃくりあげた。バルサがなにをいいたいのか、チャグムにはわかった。
               チャグムは、ゆっくりとバルサからはなれ、タンダをみ、トロガイをみた。
               タンダは、チャグムの心のうちを思って、颜をゆがめた。——チャグムがいまさとっていることは、わずか十二の少年には、あまりにも苛酷なことだった。しかし、だれにもたすけてやれないことだ。タンダは、ぎゅっと|こぶし《___》をにぎった。
               チャグムは目をとじ、しゃくりあげをとめようと、大きく息をすった。おもいがけぬ鲜烈さで、木々のにおいが鼻にすいこまれてきた。しかし、ずっと感じていたシグ·サルアのにおいは、自分のからだからきれいにきえてしまっていた。もう、みようとしてもナユグはみえない。ニュンガ·ロ·イム〈水の守り手〉の卵はいってしまったのだ。——自分のなかで、ひとつのときがおわったことを、チャグムは感じた。
               自分でのぞんだわけでもなく、ニュンガ·ロ·チャガ〈精灵の|守《も》り人《びと》〉にされ、いままた、自分でのぞんだわけでもなく、皇太子にされていく。——自分をいやおうなしにうごかしてしまう、この大きななにかに、チャグムははげしい怒りを感じた。
               だが、そのいっばうで、みょうにさえざえと、さめた气持ちも感じていた。それは、あのナユグの冷たく、广大な风景のなかで感じていた气持ちににていた。チャグムは生涯、この气持ちを心の底にもちつづけることとなる。
               チャグムは目をあけ、かすかにしゃくりあげながら、バルサをみた。
              「いいよ。あばれなくていいよ。——あばれるのは、べつの子のためにとっておいて。」
               そして、ふとおもいつき、にやっとわらってつけくわえた。
              「それ、タンダとの子だったりしてね。」
               バルサとタンダがたじろぎ、トロガイがのけぞってわらいだした。
              「じょうでき! うまい! こいつぁ、最高だわい。おまえ、なかなかいうようになったじゃないか。」
               ひとしきり大わらいをすると、わらいをおさめて、いった。
              「おまえ、もう、そこらのおとなよりずっとおとなだぁね。」
               チャグムには、この一言が、ものすごくうれしかった。


              87楼2007-07-13 23:21
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                 翌日の夕暮れどき、彼らは山から都へとわたる|山影桥《やまかげばし》についた。これは、|皇室《おうしつ》の者とその从者のみがわたれる桥である。バルサたちは、桥のたもとにたちどまり、チャグムのまえに出迎えの|牛车《ぎっしゃ》がとまるのをみつめていた。
                 チャグムはふりかえり、バルサをみて、いった。
                「バルサ、おれのこと、チャグムってよんで。——さようなら、チャグムっていって。」
                 バルサは、かすかにほほえんだ。
                「ああ。さようなら、チャグム。」
                 チャグムは、ぐっと齿をくいしばった。そして、いった。
                「ありがとう。——さようなら、バルサ。タンダ、トロガイ师。……ありがとう。」
                 そして、くるっと头をかがめて|牛车《ぎっしゃ》にのりこんだ。
                 牛车がうごきだした。ゴトゴトと车が|桥板《はしいた》にあたる音が、谷底にこだましていく。夏の夕方の光が、|牛车《ぎっしゃ》の饰り金具を光らせている。
                 夕暮れの|黄金色《こがねいろ》の光のなかに、|牛车《ぎっしゃ》はしずかにきえていった。


                88楼2007-07-13 23:21
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                  2025-11-09 00:31:10
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                  终章 雨のなかを……


                   雨がふっていた。おもくるしくたれこめた云から、银色の糸のように、雨がきれめなくふりつづいている。その雨のなかを、バルサは|蓑笠《みのがさ》をまとい、油纸でつつんだ短枪をかついで步いていた。秋がくるまえに、|青雾《あおぎり》山脉をこえて、カンバル王国へはいるつもりだった。
                   バルサは、ぼんやりと、タンダとかわした会话を思いかえしていた。チャグムとわかれたあと、その足でカンバルへむかうといったときの、タンダの颜がうかんでくる。
                  「すこし、时间がほしいんだよ。」
                   バルサは、言叶をさがしながら、いった。
                  「考える时间が、ほしいんだ。ずっとさけてたけど、一度カンバルにもどって、ジグロの亲戚や友だちにあって、ジグロがなににまきこまれ、どんな一生をおくったのかをつたえたいし。」
                   バルサは、チャグムがきえていった桥のむこうをみやった。
                  「チャグムとであって——チャグムの用心棒になって、ようやく、ジグロの气持ちが、わかったような气がする。だから、さ。」
                   バルサは、タンダに目をもどした。タンダの颜に、かすかに|えみ《__》がうかんでいた。
                  「よかったな。——いってこいよ、カンバルに。
                   でも、くれぐれも、あっちでその枪をふりまわすんじゃないぞ。カンバルにゃ、おれよりいい男はいるかもしれないが、ただで伤を缝ってくれる男はいないだろうからな。」
                   バルサは、声をあげてわらった。そして、わかれてきたのだった。
                   サァ—……と、头上の叶むらをたたく雨の音をききながら、バルサは、かたわらにチャグムがいない、ぽっかりと穴があいたようなさびしさを感じていた。チャグムとすごしたのは、わずか一年にもみたなかったのに、なんと思い出のおおいことか……。|青弓川《あおゆみがわ》にとびこんで、ぐったりとしたチャグムをたすけあげてからのことを、ひとつひとつ思いだしながら、バルサは步きつづけた。
                   いま、チャグムはどうしているだろう。これから、どう生きていくのだろう。——その人生に自分がかかわることは、もうないのだ。バルサは胸をつきさされたような痛みをおぼえた。
                  (もう、あの子にあうことは、ないだろうな。)
                   ふいにであい、また、ふいにわかれてしまった子。これからとじた宫のなかで、この世にまいおりた神の子として、一生をすごしていかねばならない子……。
                  (わたしはけっきょく、あの子の命をすくう手助けしかできなかった……。)
                   それでも、いつか、バルサが养父ジグロを思うときのような气持ちで、チャグムも自分を思いだしてくれる日がくるかもしれない。
                   かぶっている笠のふちから、ひっきりなしに雨つぶがつたいおちていく。
                   なぜ、ととうてもわからないなにかが、とつぜん、自分をとりまく世界をかえてしまう。その大きな手のなかで、もがきながら、ひっしに生きていくしかないのだ。だれしもが、自分らしい、もがき方で生きぬいていく。まったく後悔のない生き方など、きっと、ありはしないのだ。
                  (……ああ、タンダの|山菜《さんさい》锅が食べたいな。)
                   バルサは、雨のなかで、ほほえんだ。
                   谷の木々のあいだから、雨にけぶる青い山なみが、はるかにみえていた。

                  〔#地付き〕(おわり)


                  89楼2007-07-13 23:22
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                    别找我了……= =找树、bin、青、丸子都可以= =


                    91楼2007-07-14 13:23
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                      阿暗我的日语水平在50个音的水平……= =


                      93楼2007-07-15 12:37
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