平静を保とうと努力している私の心境を知ってか、知らずか、レオンハルト様の視線が私を捉える。
いつもは鋭い眼光を放つ黒い瞳が、驚きを表すように瞠られた。
じっと見つめられて、居心地が悪い。
何か変だろうかと不安になりかけた時、レオンハルト様の眦が緩む。うっすらと頬を赤らめた彼は、とても幸せそうに微笑んだ。
音もなく唇が、「綺麗だ」と綴る。
「…………っ」
やめて、死ぬ。
シンプルに死ぬ。
既に過剰摂取で吐血しそうなのに、これ以上は止めて。死んでしまいます。
式はまだ始まったばかりなのに、私は既に息も絶え絶えだ。
婚約して二年も経つのに、私は未だレオンハルト様への免疫が出来ていない。割とスキンシップ多めな方だと知ったのに、その度に死にそうになっている。
今日からお嫁さんになるなんて、未だに信じられない。
慣れるとか、飽きるとか、そんな言葉とは無縁。日を追うごとに『好き』が増していて、心臓が壊れそう。
なんとか薄い微笑みを張り付けたまま、レオンハルト様の隣まで辿り着く。
厳かな空気の中、大司教様による祈祷が始まる。
聖書の一節を朗読する声が、広い空間に響き渡った。平坦でありながらリズミカルな声の調子は、読経みたいで落ち着く。
ようやく呼吸が整ってきた頃、祈祷から誓いの言葉へと移り変わる。
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も……」
文面は地球式と変わりない。
小さい頃に親戚の結婚式に参加した時も、こんな感じだった。意味は分からないのに、何故か感動した記憶がある。それはたぶん、二人が幸せそうだったから。
世界で一番幸せだと、目が、表情が語る。
とびっきりの笑顔の花嫁さんは、間違いなく世界で一番綺麗に見えた。
「富める時も、貧しい時も」
私も、あんな風になれるかな。
ずっと追いかけ続けてきた人の隣で、私は今、どんな顔をしている?
「愛し、敬い、慰め、助け」
女性として見てもらえない事が辛くて、泣いた日もあった。
心が折れそうになって、止めたいと思った瞬間もある。けれど好きって気持ちは、どうやっても止められなかった。
正直、好きになってもらえるなんて楽観的な気持ちにはなれなくて、いつでも必死だった。思いが通じ合った今でも、夢なんじゃないかなって時々思う。
――でも、
「その命ある限り真心を尽くす事を誓いますか?」
「誓います」
真摯な声が、告げる。
レオンハルト様の秀麗な横顔に、迷いは一切ない。
うん、大丈夫。
これは現実。
私はちゃんと、レオンハルト様の隣に辿り着いたよ、と。
幼い頃の私に、心の中で語り掛けた。
今日、私の夢が叶う。
「誓います」
胸がいっぱいで、少し声が震えた。
やがてベルベットのリングピローが運ばれてきて、レオンハルト様と向き合う。
彼は白い手袋を外した。節くれだった大きな手が、銀色のリングを取る。そっと左手を持ち上げられ、薬指にするりと嵌った。
同じようにリングを手に取るが、緊張しているせいで取り落としそう。
でも重ねた彼の左手が励ますみたいにキュッと指を握るから、そちらに気を取られて、震えは緩和される。どうにか指の付け根まで押し込めた。
出来た、と顔を上げる。
安堵のあまり、子供みたいな顔していたと思う。
そしたら、酷く優しい目と視線がかち合った。
慈しみと、庇護欲とを目一杯詰め込んだような眼差し。けれど、それだけでない熱量も込められている。
墨色の瞳は、愛しているのだと、言葉よりも雄弁に語りかけた。
そんな目で見られていたのかと思うと、一気に顔が熱くなる。
レオンハルト様はベールを捲って、後ろへと流す。
焦っている私の頬に、するりと指を滑らせる。添えた手に上向かされた。
あ、あれ? このタイミングでするんだっけ?
頭が上手く働かずに混乱している間にも、綺麗な顔が近付いてくる。
耐えきれなくて目を思いっきり瞑ると、額に柔らかな感触。
すぐに離れたのでほっと息をついて目を開けると、焦点が合わない至近距離に、まだレオンハルト様の顔があった。
ぱちくりと、瞬きをする。
脳が理解する前に、唇に唇が重なった。
「……っ?」
驚きに思わず固まった。
頭が真っ白で何も考えられない。
たぶん余裕で十秒以上経ってから、唇がようやく離れる。
「大変、仲睦まじいご夫婦ですね」
いつもは鋭い眼光を放つ黒い瞳が、驚きを表すように瞠られた。
じっと見つめられて、居心地が悪い。
何か変だろうかと不安になりかけた時、レオンハルト様の眦が緩む。うっすらと頬を赤らめた彼は、とても幸せそうに微笑んだ。
音もなく唇が、「綺麗だ」と綴る。
「…………っ」
やめて、死ぬ。
シンプルに死ぬ。
既に過剰摂取で吐血しそうなのに、これ以上は止めて。死んでしまいます。
式はまだ始まったばかりなのに、私は既に息も絶え絶えだ。
婚約して二年も経つのに、私は未だレオンハルト様への免疫が出来ていない。割とスキンシップ多めな方だと知ったのに、その度に死にそうになっている。
今日からお嫁さんになるなんて、未だに信じられない。
慣れるとか、飽きるとか、そんな言葉とは無縁。日を追うごとに『好き』が増していて、心臓が壊れそう。
なんとか薄い微笑みを張り付けたまま、レオンハルト様の隣まで辿り着く。
厳かな空気の中、大司教様による祈祷が始まる。
聖書の一節を朗読する声が、広い空間に響き渡った。平坦でありながらリズミカルな声の調子は、読経みたいで落ち着く。
ようやく呼吸が整ってきた頃、祈祷から誓いの言葉へと移り変わる。
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も……」
文面は地球式と変わりない。
小さい頃に親戚の結婚式に参加した時も、こんな感じだった。意味は分からないのに、何故か感動した記憶がある。それはたぶん、二人が幸せそうだったから。
世界で一番幸せだと、目が、表情が語る。
とびっきりの笑顔の花嫁さんは、間違いなく世界で一番綺麗に見えた。
「富める時も、貧しい時も」
私も、あんな風になれるかな。
ずっと追いかけ続けてきた人の隣で、私は今、どんな顔をしている?
「愛し、敬い、慰め、助け」
女性として見てもらえない事が辛くて、泣いた日もあった。
心が折れそうになって、止めたいと思った瞬間もある。けれど好きって気持ちは、どうやっても止められなかった。
正直、好きになってもらえるなんて楽観的な気持ちにはなれなくて、いつでも必死だった。思いが通じ合った今でも、夢なんじゃないかなって時々思う。
――でも、
「その命ある限り真心を尽くす事を誓いますか?」
「誓います」
真摯な声が、告げる。
レオンハルト様の秀麗な横顔に、迷いは一切ない。
うん、大丈夫。
これは現実。
私はちゃんと、レオンハルト様の隣に辿り着いたよ、と。
幼い頃の私に、心の中で語り掛けた。
今日、私の夢が叶う。
「誓います」
胸がいっぱいで、少し声が震えた。
やがてベルベットのリングピローが運ばれてきて、レオンハルト様と向き合う。
彼は白い手袋を外した。節くれだった大きな手が、銀色のリングを取る。そっと左手を持ち上げられ、薬指にするりと嵌った。
同じようにリングを手に取るが、緊張しているせいで取り落としそう。
でも重ねた彼の左手が励ますみたいにキュッと指を握るから、そちらに気を取られて、震えは緩和される。どうにか指の付け根まで押し込めた。
出来た、と顔を上げる。
安堵のあまり、子供みたいな顔していたと思う。
そしたら、酷く優しい目と視線がかち合った。
慈しみと、庇護欲とを目一杯詰め込んだような眼差し。けれど、それだけでない熱量も込められている。
墨色の瞳は、愛しているのだと、言葉よりも雄弁に語りかけた。
そんな目で見られていたのかと思うと、一気に顔が熱くなる。
レオンハルト様はベールを捲って、後ろへと流す。
焦っている私の頬に、するりと指を滑らせる。添えた手に上向かされた。
あ、あれ? このタイミングでするんだっけ?
頭が上手く働かずに混乱している間にも、綺麗な顔が近付いてくる。
耐えきれなくて目を思いっきり瞑ると、額に柔らかな感触。
すぐに離れたのでほっと息をついて目を開けると、焦点が合わない至近距離に、まだレオンハルト様の顔があった。
ぱちくりと、瞬きをする。
脳が理解する前に、唇に唇が重なった。
「……っ?」
驚きに思わず固まった。
頭が真っ白で何も考えられない。
たぶん余裕で十秒以上経ってから、唇がようやく離れる。
「大変、仲睦まじいご夫婦ですね」










