71 :乃絵と比吕美のあいだに 14:2008/03/28(金) 00:05:41 ID:AvdoMVBI
一旦身体を离し、比吕美の目を见つめ直すと、眞一郎は话し始めた。
「ここだよな。あの时の场所……」
その短い言叶だけで、比吕美には眞一郎が何を言いたいのか分かった。黙ってコクリと颔く。
「俺……ずっとお前に谢りたかった」
あの时のこと……ちょっとした悪戯のつもりだったのに……自分は比吕美の心を深く伤つけた。
…………泣かせてしまった…………
下駄を探しに行く事は许してもらえなくて……おぶって歩く力は、まだ无くて……
どうしたらいいのか分からず……比吕美と同じように、片方を裸足にして歩くことしか出来なかった。
……でも……比吕美はそれを喜んでくれた……笑ってくれた……
「あの时……俺は决めたのかもしれない……比吕美を…ずっと笑颜にするんだって……」
「…………」
なのに……现実は逆だった。
笑颜になんて出来なかった……自分には何の力も无かったから……
涙を流さず泣いている比吕美を、ただ见ていることしか出来なかった……
本当は出来たのに……出来ないと思い込むことが、余计に比吕美を泣かせている事にも気づかなかった。
「そんな时に、アイツが…乃絵が现れたんだ」
「…………」
最初は変な奴だと思った。头がおかしいに违いないと。
でも、亲しくなるにつれて、深く话していくにつれて、乃絵への感情は変わっていった。
乃絵が口にした『飞ぶ』という単语が、心に引っ挂かった。
……そして……比吕美に乃絵の兄贵が好きだと闻かされて……
嫉妬して、苛立って、……でもそれが比吕美の望みなら、と思い直して……
なのに4番との仲立ちをしても、比吕美は笑ってくれなくて……
おまけに突然、比吕美と兄妹かもしれない、なんて言われて……
自分の気持ちも、周りの状况も、どんどんグチャグチャになって……
「混乱してる俺を见て、乃絵は『一绪に考えたい』って言ってくれた」
「…………」
その顷から、乃絵が自分に向けてくる感情に気づきはじめた。
自分のために用意してくれる弁当。自分のためにした比吕美との喧哗。
そして、それが确信へと変わったとき……自分が乃絵を大切に思っていることにも気づいた。
「俺は乃絵が好きなんだ…………そう…思うことにしたんだ……」
黙って耳を倾けていた比吕美の表情が昙り、唇が噛み缔められた。
自分はあと何度、比吕美を悲しませるのか……それを思うと、仅かながら决心が揺らぐ。
だが、これは避けられない事。比吕美と本当の意味で向き合う为には必要な事なのだ。
気持ちを奋い立たせ、眞一郎は话を続けた。
72 :乃絵と比吕美のあいだに 15:2008/03/28(金) 00:09:27 ID:AvdoMVBI
「でもさ……お前を…お前を谛めることなんて、出来るわけなかった」
比吕美が4番のバイクに乗って消えた时……家を出るといった时……
……梦中だった。何も考えずに后を追った。
绝対に手放したくないモノ、それが何なのか……思い知った。
…………なのに…………
比吕美と気持ちが通じ合った后も、乃絵が自分の中から消えなかった。
自分は比吕美を一番大切に想っているはずなのに……
……どうしても……乃絵の事が头から离れない……
自分の気持ちが自分で分からない……自分に向き合うことが出来ない……
…………向き合うことが…怖い……
「ちゃんとするって言ったのに、何もちゃんと出来ない。……でも……それは俺だけじゃなかった」
祭りの前夜、いなくなった乃絵を见つけた时……闻いてしまった。
自分は飞べない……そう力无く呟く乃絵の声を……
「アイツは……とっくに気づいてたんだ、俺の本心に。そして乃絵も、决める事を怖がっていた……」
………家に帰って考えた……比吕美のいた部屋で……考えて……考えて……考えて……
…………
「分かったんだ。俺が本当にしたいこと。俺がアイツにしてやれること。しなければならないこと」
……それは自分が『飞んで』みせること……
自分が何に向き合って、自分が何を选んで、自分が何を决めたのか……见せること。
乃絵自身にもそれが出来るのだと……飞ぶことが出来るのだと……彼女自身に分からせること。
…………
……约束を果たそう……そう思った。乃絵とした二つの约束を。
その时、『雷轰丸と地べたの物语』のラストが见えた。
麦端踊りの本番……乃絵のために、舞の全てに魂を込めると决めた。
乃絵のお阴で自分は飞べた!その事を见せたかった!
……比吕美を伤つける……それを承知の上で…………その方法しか、自分には无かったから……
黙って闻いていた比吕美の口から、吐息のように声が漏れる。
「……石动さんは……『飞べた』の?」
眞一郎は、优しい眼差しでゆっくりと颔く。
「……飞べた……俺も一绪に『飞んだ』。…………さよなら……したんだ。二人で」
乃絵との终焉を告げる眞一郎の言叶に、比吕美の心が激しく揺れる。
「俺は……不器用だからさ……乃絵と『ちゃんと』するまでは、お前と向き合えなかった……」
「…………」
消えると思っていた恋が……终わると覚悟してた爱が……また…繋がっていく…予感……
比吕美は胸を震わせて、眞一郎の言叶を闻いていた。
「俺、『ちゃんと』した。……ちゃんと出来たんだ……
だから……俺が何を决めたか、何をしたいか……お前に……比吕美に闻いて欲しい……」
一阵の风が吹きぬけ、竹のトンネルをサワサワと鸣らす。
その隙间から差し込む苍い月光が、両眼いっぱいに蓄えられた比吕美の涙を、キラキラと光らせていた。