镜像。唐突に、関羽は理解した。この関羽は镜だ。镜ひとつ隔てた、向こう侧のわたし。长い髪も、衣装も、辿った过去も违うけれど、彼女はわたし。
これは梦。関羽はそれを思い出す。
「懐かしいのは、当たり前よ……。わたしは、贵女なんだもの」
「あなたが、わたし?」
「お愿い、思い出して、『関羽』。すべてを失う前に、贵女が愿っていたことを」
「関羽」の目が见开かれる。この関羽の惊いた颜は、初めて见た。関羽は必死の思いで、傍らに立つ「関羽」に言叶を向ける。体の震えは、いつの间にか止まっていた。
「わたしの、なまえ……どうして……」
「曹操も、本心ではこんなこと望んでいないわ。ちゃんと话して顶戴、彼と。こんなところにじっとうずくまっている、そんなのはわたしの望みじゃない」
「それはあなたの、でしょう……?」
「违うわ。わたしは贵女。贵女は、わたしなの」
「…………」
「関羽」は黙りこくってしまう。突然こんなことを言われれば、混乱して当然だ。しかも自分自身を见ることさえない、こんなぬるま汤の中にずっといたのでは、余计に。でもだからこそ、と関羽は思う。ある意味でまっさらな今の彼女に、この现実を伝えられたら。
「関羽……」
「……そうやって、呼ばれるのは、久しぶりな気がするわ」
曹操にも、呼ばれていないのだろうか。それとも闻こえていないだけ?
「贵女は? 彼の名前を呼んだことがある?」
「ええ……、……いいえ、わからないわ」
「彼ともう一度向き合って。曹操の瞳を见つめて。その中に、あなたがいるわ。わたしがいる」
「…………」
あらゆることから目を逸らしたから、この「関羽」は鸟笼の鸟になってしまった。ちっぽけな自分に、何ができるかなど知らない。梦の中の存在に、どうしてこんなにも必死になるのかなどわからない。
镜に移った像のように、わたしたちはとてもよく似ているけれど、同じ存在ではない。同じ存在ではないけれど、わたしたちは同じなのだ。
関羽の未来にも、同じことが起こるかもしれない。曹操の心がまた壊れかけたとき、わたしをこんな风に闭じこめようとするかもしれない。関羽だって、いつ何を失うかも知れないのだ。その时に、心をなくしてしまうかもしれない。
(でも、そんな未来、わたしが许さないわ)
自分を见失うのが曹操でも、関羽自身であっても、ぜったいに取り戻してみせる。それを证明したいのかもしれなかった。ふたりなら大丈夫だと、あれだけの困难を乗り越えたのだから、きっと平気だと。自分が谁より信じたいのかもしれない。
「あなたは、强いのね」
小さく微笑んで、「関羽」がそう言った。関羽はゆっくり首を横に振る。
「强くなんてないわ。わたしも、贵女と同じだもの。同じ弱さを持ってる……」
「弱いと感じられるのも、强さのうちよ」
「なら、贵女も强くなれるわ」
「関羽」は表情を変えない。否定も肯定もしなかった。强くなろうと、思ってくれただろうか。
蝋烛が危なげに揺れている。「関羽」は残り仅かな蝋烛の芯を见ると、时间だわ、と呟いた。
「时间?」
「あの蝋烛が消えれば、あの人はここに来るの。あなたも、もう、行ったほうがいいわ」
だから蝋烛を気にしていたのか。きっとあの蝋烛が消えたとき、この梦も终わるだろう。最后に関羽は、いちばん闻きたかったことを讯いた。
「……ねえ、贵女の名前を、教えてくれる?」
「え? あなたは知っているんじゃないの?」
「贵女の口から闻きたいの」
意识的に目に力を込めて、贵女の、と强调する。「関羽」はやっぱりどこか不思议そうにしていたが、声に出して答えてくれた。
「……関羽よ。わたしの名前」
「…………」
彼女は自分だ。でもわたしじゃない。関羽が深く息を吸ったところで、彼女が小さい笑みを唇に浮かべた。今日见た中で、いちばん人间らしい笑みだった。その瞳はどこか远くを见るようで――まるで、过去を思い返しているようだった。
「前のことはよく覚えていないけれど、でも、ひとつだけ。良い名だと、昔谁かが言ってくれたことがあるの。それだけは、よく覚えてるわ」
関羽は目を见开いた。最后の焔を揺らして、蝋烛が消える。辺りが暗に包まれ、関羽は梦の终わりを知る。梦の终わりに、よく知った足音が闻こえた気がした。