——それは、妄執と狂気に至る愛。
終戦から六年が過ぎた日本。逗子行きの列車に一人の男の姿があった。「高城秋五」——、かつて警視庁に籍を置いていた男。退職した自分が逗子くんだりにまで
出向くことになった理由を、秋五は膝の上に置いた新聞の見出しから思い返す。「上野連続バラバラ殺人事件——」日本では類を見ないこの事件を、
かつての上司「有島一磨」が担当していたことから、この逗子行きが決まった。
「頼まれてくれないか?」
長沙・満州・警視庁を通して上司として世話になった有島の頼みを、断ることはできない。引き受けた仕事は、良家息女の失踪事件。失踪事件のあった上月家で、
かつて逢瀬を交わした恋人——「上月由良」と同じ顔を持つ少女「上月和菜」と出会う。そして彼女から、消えた双子の姉を捜し出して欲しいと懇願される。
だが由良の父親である上月慶一郎は、秋五に告げた。
「あの娘は、本当は死んでいるんですよ……」
交錯する虚構と真実。戦後間もない上野の町を舞台にして、今、惨劇の幕が開く——。